古訪ねる歴史旅 丸亀市

古訪ねる歴史旅

  • line
丸亀城・中津万象園
美しい石垣に囲まれた名城・丸亀城は、丸亀市内中心地にそびえる市のシンボル的存在です。丸亀城は1597年に生駒親正らによって築かれ、その後1641年から藩主となった山﨑家によって再建が行われ、1658年からは京極家が城主となりました。日本一小さな天守は、全国に現存する木造天守12城の一つで、天守と大手門(追手門)が残るのは、丸亀城、弘前城、高知城だけです。大手一の門とともに京極家の治世のときに建てられ、いずれも国の重要文化財に指定されています。
丸亀城は標高約66mの亀山に石垣を積み上げて築かれた平山城で、別名「亀山城」とも呼ばれ、「亀山公園」として整備されています。「石の城」と形容されるほど美しく、高い石垣はまさに圧巻。品格ある清浄な空気感に、市民に愛され、大切にされてきた場所なのだということが伝わってきます。

早速、お城の北側にある大手口から「二の門」と「一の門(太鼓門)」をくぐって城内へ。重厚な木製の門扉と太い梁が支える城門は江戸時代前期の建築。かつて武者たちが駆け抜けた風景を想像しながら足を進めます。

入って左へ進むと丸亀市観光協会が運営する案内所があり、スタッフの方に丸亀城の見どころをお聞きしました。

「まずは『見返り坂』ですね。三の丸に登る急な坂で、途中後ろを振り返りたくなるからそう呼ばれているんですよ。登ると『扇の勾配』と呼ばれる、有名な石垣がありますから、ぜひご覧ください。その後二の丸の裏をまわって石垣を見て、階段で天守へ上がるといいですよ」と教えてくれました。

いざ、急こう配の「見返り坂」へ。傾斜10度、150mの長い坂をゆっくりと歩きます。
これだけで足が止まりそうになり、息が上がります。

三の丸北側の石垣は、丸亀城の中で最も高く、20m以上の城壁が続きます。その隅角部にあるのが「扇の勾配」と呼ばれる部分です。高く反り返るほどの勾配が美しく、整然と積まれた石垣の美しさにしばし見とれてしまいました。

さらに坂道を歩くと三の丸から二の丸・本丸へと続く分岐点があります。スタッフの方に教えてもらった通り、二の丸の北側へ続く道を選択。

すると二の丸を囲む長い石垣が見えてきました。その大部分は「打ち込みハギ」という技法で積まれており、苔むした石肌に時の流れを感じます。丸亀城は平地から本丸に至るまで、山全体を4段の石垣が取り囲んでおり、他に「野面積み」「切り込みハギ」など、様々な技法を用いた石積みが見られます。

ちなみにこちらは「切り込みハギ」。削って加工した石を使います。大手門口を入って正面にある石垣には「鏡石」と呼ばれる2mを超える大きな石が使われています。城の重要なところに築き「魅せる石垣」として用いられています。

さていよいよ、本丸の天守へ。高さ約15m、三層三階の天守は四国で最も古く、1660年に完成しました。日本一小さな現存木造天守ながら、「唐破風(からはふ)」や「千鳥破風(ちどりはふ)」など、装飾的な意匠を凝らした造りです。

堅牢な構造の天守を、急な階段で最上階まで上ると、丸亀市街が一望できます。彼方に穏やかな瀬戸内海、メインストリートに沿って丸亀市役所や公園、商店街などが碁盤状に整備され、かつての城下町の面影が感じられます。

次に、本丸を下り三の丸の南側へ行きました。丸亀城は2018年の台風や豪雨などの影響で、石垣の一部が崩落してしまいました。ブルーシートがかけられた現場は、まだ崩落の跡が生々しく残っています。被害がこれ以上広がらないよう、現在は応急対策を行っています。

場内の広場には石垣に使われていた石がずらりと並んでいます。一つひとつの石には番号が記され、2023年末までの5カ年計画で復旧が進んでいます。

丸亀市では、城内の一角に復興に向けた情発信拠点としてPR館を設置しました。丸亀城の歴史や石垣崩落の経緯、工事の概要などのほか、石工の道具や出土品なども展示され、屋上には展望デッキもあります。

城内には桜のつぼみが膨らんでいました。毎年見ごろは4月初旬。春はもうそこまできています(取材時は1月)。


続いて、丸亀城を後にして車で10分ほどのところにある中津万象園へ向かいました。

中津万象園は、1688年に京極家2代藩主・京極高豊によって築庭されました。
園内中央には、京極家先祖の出身地である近江の琵琶湖になぞらえた池が配されています。池の中には、近江の8つの風景「近江八景」になぞらえ、雁・雪・月・夕映などと名付けられた8つの島があります。中津万象園は、それらの島々を橋で結んだ池泉回遊式の大名庭園なのです。

「万象園」の名は、宇宙に存在するものすべてを意味する「森羅万象」にちなんでおり、まさに自然の美しさを感じることのできる名園です。

まずは園内にあるレストラン「懐風亭」で昼食をいただきます。
こちらの「茶茶御膳」は、歴代の丸亀藩主が嗜んだという煎茶をはじめ、ほうじ茶や抹茶など、お茶をほぼ全品に取り入れたメニューです。
季節により内容が変わり、取材時には鱈のほうじ茶釜飯をはじめ、河豚抹茶衣揚げ、茶葉入り牡蠣フライ、海老のほうじ茶チーズグラタンなど贅を尽くした全8品でした。
こちらは、抹茶入り豆乳鍋。海老やイカ、白菜など具沢山で、クリーミー。体がぽかぽか温まり、ほんのりとした抹茶の香りにも癒されます。

「ポリフェノールやカテキン類が豊富なお茶は古来から薬としても使われ、健康にいいといわれています。かくいう私も、お茶のおかげでコレステロール値が下がったんです」と、お店のマネージャー。お茶は葉ごと食べると、その栄養素を効率よく摂り入れられるそうです。
デザートは抹茶と煎茶のぜんざい。好みの薄さまで煎茶をぜんざいに注ぎ入れていただきます。添えられているのは高瀬の「べに茶」。発酵茶ですが、渋みが少なくすっきりとした飲み口でした。味・ボリュームともに大満足の「茶茶御膳」。春には、桜海老をいれた衣で揚げた海老の天ぷらや桜鯛のほうじ茶釜飯が登場するなど、四季折々の季節感を感じられる御膳です。
食後は園内を散策。約15000坪の敷地に1500本以上の松と四季の花、池や竹林などが配置された園内には見どころがたくさんありますが、まずは「邀月橋(ようげつばし)」を渡り、八景池へ。

平日だったこともあり、人影もまばらで園内はまさに「静寂」。滴るような松の緑が水面に映り込み、とても心が落ち着きます。

ふいに、水が跳ねる音が聴こえたので目を凝らすと、鯔(ぼら)が水面をジャンプしています。海が近いため、池は淡水と海水が混じる汽水(きすい)で、錦鯉も泳いでいました。スタッフの方によると、池には鷺や鴨、亀なども棲んでいるとのこと。なるほど、その園名の通り、ここでは動物や植物が生き生きとしているように感じられます。

池を中心としたどこもかしこも絵になるので、ゆっくり歩くのがおすすめです。

池の一角、島々を一望できる場所にある「観潮楼(かんちょうろう)」も、独特の風情があります。この楼は、江戸時代後期から明治にかけて大流行した煎茶道の流行の初期に建てられました。煎茶道は、形式を重んじる従来の茶道を堅苦しいと感じる人々の間で流行した、自由なお茶の楽しみ方のひとつです。

煎茶席として現存国内最古といわれるこの茶室で、藩主たちは高瀬から取り寄せたお茶を楽しんでいました。季節や時間により移り変わる庭を眺めていると、五感が冴え冴えとし、見飽きることがありません。

四季折々の花も庭を彩ります。2月から3月にかけては椿や梅、4月になると桜、4月下旬から5月にかけてつつじ、藤、夏には百日紅や水連、秋は芙蓉や金木犀など色とりどりの花が咲き、訪れる度に違った表情を見せてくれます。

最後に、年号が変わることを記念して園内に誕生した新スポット「100本の鳥居回廊」へ。竹林とのコントラストが美しい、100本の鳥居のトンネルを、どんどん歩いていくと…
京都伏見稲荷の分社へとつながっています。ここでお願いごとをして散策は終了。園内には19世紀のフランス絵画を展示した絵画館や、古代オリエントの陶器などを展示した陶器館からなる丸亀美術館もあります。春になったら今度は花と美術を観に来たいと、思いを馳せながら帰途につきました。

-----------
丸亀城
住所   香川県丸亀市一番丁
電話番号 0877-22-0331(丸亀市観光協会)
天守入場料 200円(大人)・100円(小中学生)

-----------
中津万象園・丸亀美術館
住所   香川県丸亀市中津町25-1
電話番号 0877-23-6326
開園時間 9:30-17:00(最終受付16:30)
休園日  水・12月30日、31日
入園料  700円(大人)・300円(小中学生)
美術館入館料 500円(大人)・200円(小中学生)(特別展開催時は変更有)
※美術館の開館日時は中津万象園に準じます
 
中津万象園 味処 懐風亭 
住所   香川県丸亀市中津町25-1(中津万象園内)
電話番号 0877-23-2266
営業時間 11:00-14:30(L.O.14:00)
     17:00-21:30(入店19:30まで/L.O. 20:30)
     ※火曜日の夜は前日までの予約制
定休日  水曜日
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、営業時間変更や休業を行うことがあります。詳しくは当施設までお問い合わせください。

同じテーマの記事

当サイトでは、利便性の向上と利用状況の解析、広告配信のためにCookieを使用しています。サイトを閲覧いただく際には、Cookieの使用に同意いただく必要があります。詳細はクッキーポリシーをご確認ください。

同意する