芸術祭だけじゃない!香川のアート
近づいてみると、さらにびっくり。見上げるほど高いレンガの壁に阻まれ、中が全く見えません。とても静かな場所にあり、要塞のようにも見えます。
ここに一人で暮らしていたという流政之とは、一体どんな人物だったのでしょうか。
1923年に生まれ、刀鍛冶、装丁家、零戦パイロットなど数々の経歴を持ち、彫刻だけにとどまらず、作庭や陶芸、家具デザインなど、多彩な造形においても独自の技法やスタイルを確立した作家。日本経済新聞に寄稿した『私の履歴書』には、かなり放浪癖というか、旅好きというか、フーテンだったというエピソードが書かれています。
建物の周りには、作品がたくさん並んでいます。彫刻家としての流はかなり多作で、その数は世界中に数えきれないほどあり、NAGARE STUDIOには、そのうち約400点が展示されています。
流のことをよく知るスタッフが館内を案内してくれます。その一人、太田さんは流が主宰した「石匠塾」のメンバーで、ともに1964年ニューヨーク世界博日本館の大壁画「ストーンクレージー」の制作を手がけました。「先生の作品は四方正面、つまりどこから見ても正面。どうぞ手で触れてみてください」と太田さん。手をのばしてみると、艶やかでひんやり。そして一部ざらざらとした触感が感じられます。
これが流作品の特徴の一つ「割れ肌」。敢えて石の表情をそのまま残して仕上げているそうです。刃物で切ったような鋭さの中にやわらかな曲線を含み、さらに鉱物としての石本来の魅力を作品の中にバランスよく構成し、その一つひとつが違っていて美しいのです。素材も黒御影、大理石、庵治石のほか石や木、鉄など様々なものを使い、旺盛な制作意欲を感じます。
中庭をぬけると一気に視界が広がります。瀬戸内海を望む芝生広場には、さらにたくさんの作品が設置され、気持ちよさそうに陽光を浴びています。「先生は作品をつくる時、周りにとけこんでいるかを大切にしていました。人が集まって町おこしに繋がるようなものを作りたい、作品に鳥が糞をしてもいいんだ、とよくおっしゃってました」と太田さん。
こちらは、流の代表作「サキモリ」シリーズ。サキモリとは「防人」、つまり古来より命を捨てて国を守った無名の戦士たちのこと。「胸に四角い風穴あき、内臓なく、風通し良く、ひとのいのちをうけついで瀬戸内海の岬に立ち、雲に身をまかす」(『私の履歴書』より)。守っているようにも、開いているようにも見えるし、空しくも爽快にも見える…。じっと見ていると「どんなふうに感じてくださってもいいんですよ」と太田さん。ここは誰もが「自由」であることを、守ってくれている城なのかもしれません。
NAGARE STUDIOからは人家はほぼ見えず、見渡す限りの空と海。喧噪を忘れ、自由に心を遊ばせるにはぴったりの場所です。自然との一体感を感じながら、作品と向き合う贅沢なひとときを過ごすことができました。
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NAGARE STUDIO「流政之美術館」
開館日 木・金・土
営業時間 10:30-/13:00-(要予約・各回ともスタッフによる定員ツアー制)
※展示替え・年末年始ほか臨時で閉館する場合があります。公式サイトをご確認ください。
住所 高松市庵治町3183-1
電話番号 087-871-3011
入館料 5,000円(一般)・2,000円(大学生以下、学生証提示)・メンバーシップ及び同伴者)
所要時間 約60分