国の重要文化財指定!「金刀比羅宮」と「瀬戸内海歴史民俗資料館」

2024年8月に金刀比羅宮の御本宮や御別宮などの社殿群、12月に瀬戸内海歴史民俗資料館が国の重要文化財に指定されました。歴史的、文化的に価値が高く、後世に伝えるべき建造物として認定された「こんぴらさん」と「れきみん」。その背景と見どころを紹介します。
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「こんぴらさん」の愛称で親しまれている金刀比羅宮。琴平山(象頭山)の中腹に鎮座し、古くから海の守り神や医薬・商売繁盛などの神様として全国で信仰されてきました。江戸時代には「一生に一度はこんぴら参り」という言葉ができるほど憧れの場所として高い人気を誇り、現在も国内のみならず海外からも大勢の観光客が訪れています。参道口から御本宮までは785段、奥社までは1,368段の石段が連なり、長い参道にも様々な文化財や土産物屋などが並んでいます。
新たに12棟が重要文化財に指定
金刀比羅宮では1955年に国の重要文化財に指定された奥書院と表書院、1982年に指定された旭社に加え、新たに12棟の社殿群が指定されました。今回指定された社殿群は明治時代の1878年に改築されており、当時の政府の宗教政策が色濃く反映されています。

金刀比羅宮に祀られていたのはもともと金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)という神仏習合の神様。明治時代に政府が神仏習合の慣習を禁止し、神社と寺院を区別する「神仏判然令(神仏分離令)」を発令しました。こうした背景をもとに建造された社殿群は、仏教的要素を無くす工夫が施されており、独自の意匠を見ることができます。
新しく国の重要文化財に指定されたのは、御本宮(本殿・中殿・拝殿)、御本宮直所、御本宮神饌殿、御別宮(本殿・中殿・拝殿)、御別宮神饌殿、御別宮直所、祓除殿、南渡殿、神楽殿、御炊舎、神輿庫、神庫です。
御本宮をはじめ、建造物の中までは一般の参拝者は入ることはできません。昇殿参拝者は、修祓をうけたのち、御本宮の拝殿に昇殿して参拝することが可能です。建造物の外からも金刀比羅宮の独特な意匠を一部見ることができます。
御本宮は木の持つ風合いを活かした素木(しらき)造り。屋根を支える軒下は複数の部材を組み合わせて作られていますが、仏教的な要素である曲線が少なく、角形を多用しているのが特徴です。
金刀比羅宮では33年に一度の周期で御本宮の屋根の葺き替えなどを行うため、御神体を仮殿の御別宮に移すという「遷座」があります。2つを繋ぐのが全長42mの南渡殿。廊下は直線ではなく、境内の広場を囲うような独特の形式になっています。
御本殿の格天井は138枚の天井板で作られ、桜の蒔絵が施されています。桜の絵柄は1枚1枚異なっており、どれも上品で洗練された美しさ。格天井を外から見ることは難しいですが、実は建築当時の桜樹木地蒔絵を眺められるスポットがあるのをご存じでしょうか。

桜樹木地蒔絵は御本宮の本殿両側面にも設けられています。御本宮直所側には桜の大樹の幹と枝ぶり、御本宮神饌殿側には垂れ下がる枝と花々が描かれ、本殿を挟んで1つの大きな桜を表現しているそうです。南渡殿の下を通り抜けて神輿庫に向かう階段からは蒔絵をしっかり鑑賞することができます。
明治時代の改築では、完成した御別宮に遷座をした後に御本宮を建築しているため、2つの建築物には数年の差があります。そのため、御別宮の建築材には神仏習合の名残である曲線の意匠があるなど、わずかな期間にも神仏分離に対する工夫が進んだことが感じられます。また、高欄や飾りも御本宮の意匠のほうが凝っており、格の差が現れているそうです。
金刀比羅宮は古くから続く歴史やご利益はもちろんのこと、建造物としても高い価値を有しています。特に社殿群は明治時代の文化的背景や宮大工の創意工夫を見ることができます。参拝を済ました後は、ぜひさまざまな角度からじっくり社殿群を鑑賞してみてください。

【基本情報】
所在地/〒766-0001 香川県仲多度郡琴平町892-1
電話番号/0877-75-2121
参拝時間/大門 6:00~18:00 本宮授与所 9:00~17:00
定休日/無休
料金/参拝は無料
公式サイト/https://www.konpira.or.jp/?stageID=hp_home&language=JAPANESE
アクセス/(参道口まで)JR琴平駅より徒歩20分、琴電琴平駅より徒歩15分、善通寺ICより車で約15分
瀬戸内地域の暮らしと文化を伝える資料館
瀬戸内海歴史民俗資料館は主に瀬戸内11府県を対象に民俗資料の展示・収集などを行う資料館で、「れきみん」の愛称で呼ばれています。木造船や船大工用具、農具、信仰用具など約3万点の民俗資料を所蔵し、そのうち約6千点が国の重要有形民俗文化財に指定。瀬戸内の暮らしや歴史を知ることができる展示資料に加え、自然に囲まれた五色台の山上というロケーションも魅力です。
自然に溶け込んだ美しい建築
資料館の建物は当時香川県土木部の職員だった山本忠司が設計し、1973年に竣工しました。1975年に「日本建築学会賞(作品賞)」、1988年には「第一回公共建築賞優秀賞」を受賞。さらに、「公共建築百選」や「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」にも選出されています。

資料館は大小さまざまな正方形の展示室が連なるという特殊な構造が大きな特徴です。五色台という自然景観と調和し、地域の特性を活かしたデザインが高く評価され、国の重要文化財に選ばれました。指定された2024年12月現在では1970年代の建造物の選出は初めてのことで、現時点では、建造物として最も新しい重要文化財となっています。
山を全て平らに整地するのではなく、斜面に沿って建設しているため、高低差約7mの地形に馴染ませるように10の展示室が配置されています。8m×8mのユニットを基準とし、その倍数のサイズのユニットが組み合わされ、中庭を囲うように回廊状に繋がっています。展示室を回るには階段を登って屋内外に出入りする必要があり、まるで探検をしているかのようなワクワク感があります。
建物の中でも印象的なのが外壁の石積み。城の石垣と違い、コンクリートの表面に手作業で石を貼り付けた壁になっています。この石の大部分は基礎工事のときに大量に生じた安山岩を使用したもの。展望台へと続く屋外階段の横のスペースには岩山が露出しており、この地が外壁と同じ安山岩で出来ていることが分かります。
玄関ホールと展示室の床は大小のレンガが組み合わされています。このレンガは地元の製陶会社の特注品で、こちらも職人の手によって一枚一枚貼り付けて作られたそうです。石積み以外の外壁はコンクリート壁で、あえて磨かずに打ち放しとすることによって素材の質感が感じられるようになっています。
各所に大きな開口部が設けられた開放的な展示空間も、文化財として評価されたポイントの一つ。特に中央ホールは屋内外が一体化しているように感じるほどオープンな空間。10の展示室のうち6室にハイサイドライトも設けられており、室内を明るく照らしています。
屋内だけではなく4か所に屋外展示空間も配置されています。屋外も展示スペースとして活用することは設計の段階から決まっており、ガラスには展示物への紫外線による影響を減らすために紫外線をカットする塗料が塗られました。大きなガラスを通して室内からも屋外展示をしっかりと見ることができます。
展示室を繋ぐための外階段だけではなく、室内に階段がある展示室もあります。ステップも展示空間として利用されており、見上げるのと見下ろすのとでは空間や展示の見え方も変化。階段での移動も楽しくなります。
また、展望台に通じる屋外階段も職人の技が光るスポット。一段一段型枠を作ってコンクリートを流し込み、斜めに傾斜する壁に設置するという複雑な工程を経て作られています。さらに手すりも一段一段独立。この階段と手すりの設置には施工者はかなり苦労したそうです。
1973年の完成以来、一度も大幅な修繕や建て替えが行われていない「れきみん」。瀬戸内海の豊かな自然に溶け込んでいる姿は、国内外問わず多くの人を魅了しています。この立地だからこそ完成した建造物と五色台の雄大な自然。2つが織り成す素晴らしい景観を体感してみてください。

所在地/〒761-8001 香川県高松市亀水町1412-2(五色台山上)
電話番号/087-881-4707
営業時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日/月曜日(月曜日が休日の場合は、原則として翌火曜日)、年末年始
料金/無料
アクセス/JR高松駅から車で約25分

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